糖尿病・内分泌グループ

DIABETES &
ENDOCRINOLOGY GROUP

糖尿病・内分泌グループ

「膵β細胞研究グループ」・「内分泌研究グループ」の2つの研究テーマで、臨床応用を意識した基礎研究を精力的に行っております。また、糖尿病・内分泌疾患に関する多数の自主臨床研究を積極的に行い、当グループが糖尿病内分泌疾患の独自の情報発信源となれるよう努力しています。

基礎研究

膵β細胞
 糖尿病の中でも日本人の9割以上を占める2型糖尿病では、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が糖尿病の進行につれ低下することが報告されており、インスリンを産生・分泌する細胞である膵β細胞の機能及び量の低下が2型糖尿病の病態の中心であることが明らかになってきました。そのため、膵β細胞の機能及び量を保持する方法を確立することが,糖尿病の本質的治療につながると考えられます。 膵β細胞の機能及び量を保持するアプローチの1つとして、膵β細胞でのブドウ糖代謝を調節する酵素であるグルコキナーゼに着目して研究をすすめております。糖尿病状態で膵β細胞の機能・量が低下する要因の一つとして,血糖値が高い(高血糖)状態のため、膵β細胞では多くのブドウ糖を代謝して処理しなければなりません。その結果、膵β細胞に多くのストレスが生じ、膵β細胞の機能・量が低下し、血糖値を下げるのに必要なインスリンが分泌できなくなり、さらなる高血糖が生じます。そこで、グルコキナーゼの働きを約半分にした2型糖尿病モデルマウスを作製しました。このマウスは、グルコキナーゼの働きが正常な糖尿病マウスに比べ、膵β細胞量,インスリン分泌量が多く,高血糖が改善し,生存期間も長くなっていることがわかりました。この「膵β細胞内の過剰なブドウ糖代謝を適正化することにより,糖尿病でみられる膵β細胞機能・量の低下を予防する」という概念は、新たな糖尿病の予防法・治療法の提唱であり、グルコキナーゼの抑制は糖尿病の本質的治療につながる可能性があります。現在、創薬などを通じて臨床応用に展開すべく、さらなる研究をすすめております。
 さらに、上記のような糖尿病病態下における膵β細胞でのブドウ糖代謝異常の一因に、ミトコンドリアの機能異常とそれに関連する解糖系酵素群の発現変化があります。このような膵β細胞の細胞内代謝の変化やその意義を、糖尿病モデル動物や実際の糖尿病患者さんの膵標本を用いて検討することで、基礎研究と実際の臨床との橋渡しとなるような研究を目指しています。

<発表論文>
1) Kitao N, et al. Metabolism. 85: 48-58, 2018
2) Takahashi K, et al. Sci Rep. 8: 6864, 2018
3) Omori K, et al. Metabolism. 98: 27-36, 2019
4) Nomoto H, et al. Nat Commun. 10: 2679, 2019
5) Nomoto H, et al. Diabetologia. 63: 149-161, 2020
6) Omori K et al. Diabetes. 70: 917-931, 2021
7) Tsuchida K, et al. J Diabetes Investig. 12:1545-1554, 2021
8) Nakamura A, et al. Diabetes Obes Metab. 23: 2199-2206, 2021
9) Kawata S, et al. Diabetes Obes Metab. 24: 391-401, 2022
10) Nakamura A. Int J Mol Sci. 23: 5104, 2022
11) Yamauchi Y, et al. Sci Rep. 12: 9740, 2022
12) Nakamura A, et al. Endocr J. 69: 479-485, 2022

内分泌
ホルモン産生下垂体腫瘍の新規治療薬の探索
 クッシング病は下垂体前葉腫瘍からのACTHの過剰産生により高コルチゾール血症が引き起こされ、中心性肥満や皮膚のひ薄化などの外見上の変化、高血圧、高血糖、骨粗しょう症などの代謝異常、易感染性、精神異常など多彩な症状を呈し、感染症から死に至ることもまれではありません。治療法としては外科的下垂体腺腫摘除が第一選択ですが、1cmを超える腺腫では寛解率は43%と低く、また寛解例でも33%が再発すると報告されており(Nieman et al. J Clin Endocrinol Metab. 2015)、新しい治療薬が望まれています。当科ではニューロメジンBという物質がクッシング病の腫瘍から産生され、腫瘍自身を増大させたりホルモンの分泌を増加させることを発見し、ニューロメジンB受容体を標的とした新たなクッシング病の治療薬を探索しています(自主臨床研究下垂体腺腫細胞を用いたニューロメジンB受容体拮抗薬のクッシング病に対する有効性の検討 自主臨床研究番号019-0111)。
また、同様に下垂体前葉腫瘍からの成長ホルモンの過剰分泌が原因で顔貌の変化(下顎突出、尾翼拡大、巨舌、眉丘突出など)や代謝障害(糖尿病、高血圧、脂質異常)から心血管疾患の発生率が高くなり、また悪性腫瘍の発生率が増加することからも生命予後が悪化する疾患です。先端巨大症に対しても病態の解明や新規治療薬に関する研究を進めています。

高血糖状態における副腎皮質ホルモン過剰分泌についての研究

 2型糖尿病患者では、コルチゾールの基礎値と副腎皮質刺激ホルモンに対する反応性が亢進しているという報告がなされており、血糖上昇のみならず臓器合併症の進行に関与していることが示唆されています。肥満2型糖尿病の動物モデルであるdb/dbマウスは肥満・高血糖を呈することに加え、血中のコルチコステロンやアルドステロンなどのステロイドホルモンが高値を示すことが報告されていますが、その機序の詳細は解明されていません。我々の研究グループではその機序を解明し、さらに糖尿病や臓器合併症の治療のターゲットとなる対象を探索するために研究を進めています。

臨床研究

 当グループは糖尿病・内分泌疾患に関する多数の自主臨床研究を積極的に行っており、日常診療の中での治療薬や治療法、特殊検査についての観察研究や介入研究のほか、北海道内の関連施設の多数の先生方のご協力のもと、多施設共同研究の形で標準的糖尿病薬物治療の確立に向けた研究を行っています。また、持続血糖モニターを用いて解析した血糖変動と膵β細胞機能との関連などといった2型糖尿病の病態に迫る研究もすすめています。
 臨床研究の基盤にあるものとして、個々の症例を深く掘り下げ検討し、新たな知見や臨床研究のアイデアを得ることが重要です。当科では経過や診断、治療において世界的に共有すべき症例について、積極的に学会発表や英文での症例報告を行っています。

<主な症例報告の発表論文>
1) Iesaka H, Nomoto H, Atsumi T. Alcoholic ketoacidosis presenting with hypoglycemia exacerbated by an SGLT2 inhibitor in a nondiabetic patient. Mayo Clin Proc., 2023, in press
2) Ofuji Y, Nomoto H, Miya A, et al. Urethral injury related to peri-urethral abscess as a complication of self-catheterization in an older patient with type 2 diabetes. Geriatr Gerontol Int. 2022;22(10):894-895.
3) Takahashi Y, Kameda H, Miya A, et al. Lymphocytic panhypophysitis and anti-rabphilin-3A antibody with pulmonary sarcoidosis. Pituitary. 2022;25(2):321-327.
4) Yokozeki K, Nomoto H, Atsumi T. Diabetic Chorea. J Gen Intern Med. 2022;37(10):2573-2574.
5) Oe Y, Kameda H, Nomoto H, et al. Favorable effects of burosumab on tumor-induced osteomalacia caused by an undetectable tumor: A case report. Medicine (Baltimore). 2021;100(46):e27895.
6) Chiba K, Kameda H, Miya A, et al. Letter to the Editor: False Hypercortisolemia Due to Abnormal Albumin-Cortisol Binding in a Patient with Familial Dysalbuminemic Hyperthyroxinemia. Thyroid. 2022;32(2):219-220.
7) Oba-Yamamoto C, Kameda H, Miyoshi H, et al. Acromegaly Cases Exhibiting Increased Growth Hormone Levels during Oral Glucose Loading with Preadministration of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitor. Intern Med. 2021;60(15):2375-2383.
8) Yamauchi Y, Kameda H, Omori K, et al. Severe infection including disseminated herpes zoster triggered by subclinical Cushing’s disease: a case report. BMC Endocr Disord. 2021;21(1):84. Published 2021 Apr 27.
9) Yuno A, Kenmotsu Y, Takahashi Y, et al. Successful management of a patient with active Cushing’s disease complicated with coronavirus disease 2019 (COVID-19) pneumonia. Endocr J. 2021;68(4):477-484.
10) Miya A, Nakamura A, Kameda H, et al. Gitelman’s syndrome with hyperphosphatemia, effectively responding to single oral magnesium oxide administration: A case report. Medicine (Baltimore). 2019;98(28):e16408.
11) Sekizaki T, Kameda H, Oba C, et al. Nivolumab-induced hypophysitis causing secondary adrenal insufficiency after transient ACTH elevation. Endocr J. 2019;66(10):937-941.
12) Nomoto H, Kameda H, Nakamura A, et al. Breakdown of Autonomously Functioning Thyroid Nodule Accompanied by Acromegaly After Octreotide Treatment. Front Endocrinol (Lausanne). 2019;10:131.
13) Shibayama Y, Kameda H, Ota S, et al. Case of fulminant type 1 diabetes induced by the anti-programmed death-ligand 1 antibody, avelumab. J Diabetes Investig. 2019;10(5):1385-1387.
14) Yanagiya S, Cho KY, Nakamura A, et al. The effect of everolimus on refractory hypoglycemia in a patient with inoperable metastatic insulinoma evaluated by continuous glucose monitoring. Intern Med. 2018;57(17):2527-2531.
15) Nomoto H, Miyoshi H, Nakamura A, et al. Potential importance of histopathological analysis in thyroidal diseases with high serum IgG4 levels. Intern Med. 2018;57(3):453.
16) Nomoto H, Miyoshi H, Nakamura A, et al. A case of osteomalacia due to deranged mineral balance caused by saccharated ferric oxide and short-bowel syndrome: A case report. Medicine (Baltimore). 2017;96(39):e8147.
17) Kondo A, Nakamura A, Takeuchi J, et al. Insulin-Induced Distant Site Lipoatrophy. Diabetes Care. 2017;40(6):e67-e68.

主な学会活動

日本内科学会
日本糖尿病学会
日本内分泌学会

日本甲状腺学会

日本肥満学会
日本動脈硬化学会

日本病態栄養学会

日本糖尿病・肥満動物学会

日本糖尿病合併症学会

日本臨床分子医学会

日本神経内分泌学会

日本間脳下垂体腫瘍学会

日本糖尿病協会

グループの取り組み

メンバーリスト

 

氏名 役職 出身大学 卒業年度
中村 昭伸 (グループヘッド) 診療准教授 横浜市立大学 2001年(平成13年)
曺 圭龍 特任助教 北海道大学 2004年(平成16年)
亀田 啓 助教 北海道大学 2005年(平成17年)
重沢 郁美 大学院生 慈恵会医科大学 2013年(平成25年)
上垣 里紗 大学院生 札幌医科大学 2014年(平成26年)
千葉 幸輝 大学院生 北海道大学 2015年(平成27年)
桑原 咲 大学院生 北海道大学 2016年(平成28年)
古澤 翔 大学院生 札幌医科大学 2017年(平成29年)
宮崎 あすか 大学院生 北海道大学 2017年(平成29年)
横関 恵 大学院生 旭川医科大学 2017年(平成29年)
大西 錦之介 医員 北海道大学 2019年(平成31年)
大藤 悠理 医員 北海道大学 2019年(平成31年)
住田 無限 大学院生 北海道大学 2020年(令和2年)
伊藤 悠菜 医員 北海道大学 2021年(令和3年)
永井 聡 客員臨床講師 北海道大学 1996年(平成8年)
山本 浩平 客員臨床助教 札幌医科大学 2008年(平成20年)
萬田 悟 客員臨床助教 東邦大学 2013年(平成25年)
山内 裕貴 客員臨床助教 北海道大学 2014年(平成26年)
泉原 里美 客員臨床医師 旭川医科大学 2015年(平成27年)